やり投げに回転投法が無いのはなぜか

やり投げにはたったひとつの投法しか無い

やり投げに回転投法が無いのはなぜか

多くの投てき競技には、いくつかの「投法」が存在するものです。

 

例えば砲丸投げなら「グライド投法」「回転投法」、円盤投げなら「スタンディングスロー」「ハーフターン投法」「フルターン投法」といった具合です。

 

ところが不思議なことに、やり投げという競技には、たったひとつの投法しか存在していません。

 

他の投てき競技で実績を上げることが出来なかった選手は、フォームを変えようと試すことがあるでしょう。

 

しかし投法がひとつしか無いやり投げの選手には、そのような試行錯誤の余地も無いのです。

 

では、どうしてやり投げにはひとつの投法しか無いのでしょうか。

 

今回はその理由について詳しく解説していきたいと思います。

 

やり投げにもかつて「回転投法」があった!?

現在の国際基準ルールでは、助走からクロスステップをつけながら、やりを前方に真っ直ぐ投てきするという、スタンダードな方法しか認められていません。

 

しかし実は、このような現在の投法とは全く違った「回転投法」が、やり投げの世界にも存在していたということをご存知でしょうか。

 

やり投げの回転投法…と言われても、なかなか想像しづらいかと思います。

 

かつて使われていた回転投法は、映像記録に残っていませんが、例えるなら円盤投げのフォームに近いものだったと伝わっています。

 

投げる方向に対して背を向け、そこから一気に体をひねることで、やりを飛ばすための推進力を生みだします。

 

この方法では助走をつけることができませんが、回転によって生まれる遠心力を使った投てきは、非常に強力だったそうです。

 

また、通常の投法ではやりの中心部あたりを持ちますが、回転投法ではやりの後端を握っていました。

 

あえて後端をもつことにより、いわばハンマー投げのように、大きな遠心力を生み出すという狙いがあったのでしょう。

 

回転投法によって世界記録が生まれていた

すでに禁止されてしまった回転投法ですが、その威力は本当にすさまじいものでした。

 

というのも、かつて回転投法によって叩き出された記録は、技術の進歩した現在のアスリートたちをもってしても、越えられない壁となり立ちはだかっているからです。

 

記録に残っているなかで、一番最初にやり投げの回転投法が確認されたのは1950年代のことでした。

 

名前は不明ですが、当時のスペインの選手がやり投げの大会で、回転投げを披露したことが記録されています。

 

一説には、この選手はやりの滑りをよくするために、グリップに石鹸を塗っていたともいわれています。

 

この選手が行った石鹸を塗るという行為も、当時まだ誰も想像していなかった回転投法を本番で実行したことも、ハッキリ言って反則スレスレの行為でした。

 

しかし彼はこの方法を用いて、なんと100m以上もの飛距離を叩き出しているのです。

 

この時代の世界記録が86m04だったことを考えても、100m越えという記録が、いかに飛びぬけたものだったのかが分かります。

 

その後、数々の選手がスタンダードな投法で飛距離を伸ばし続けてきましたが、残念ながら現在に至るまで、回転投法による記録を超えるものは現れていません。

 

 

すぐに禁止された回転投法…その理由は?

やり投げの世界には、確かに回転投げが存在し、その使い手は恐るべき実力を発揮していました。

 

これだけ優れた記録を出せる投法なら、定着しそうなものなのですが、ご存知の通り現在のルールで、回転投法は厳しく禁止されています。

 

回転投法が禁止された理由はいたってシンプルで、「危険だから」という一点につきます。

 

砲丸投げの回転投法も「投げる方向が安定しない」という理由で敬遠されることがありますが、やり投げの回転投法は安定とは程遠いものでした。

 

上手くいけば100mを軽く超えてしまうポテンシャルを秘めた回転投法…裏を返せば、失敗すると客席に向かって飛んでいく確率が高い、危険な投法でもあったのです。

 

事実、回転投法で放たれたやりが、客席に突き刺さったという当時の記録も残っています。

 

重さのある砲丸投げなら、多少投げる方向がズレたとしても、グラウンドを飛び越えることはありませんが、やり投げは一定の方向に飛ばさなければ、周囲の人を危険に晒してしまいます。

 

このような背景から、やり投げの回転投法は、登場から数年と持たずに禁止されてしまいました。

 

かつて回転投法で叩き出された100m超えの記録も、現在では公式な記録とは認められていません。

 

 

やり投げに工夫の余地はない?

残念ながら禁止されてしまった回転投法ですが、もしも今でも回転投法が有効だったとしたら、世界記録は120mや130mに到達していたかもしれません。

 

確かに回転投法は危険な投法でしたが、当時のルールの抜け穴を着いて、飛距離を伸ばそうとした考案者のガッツには、見習うべきところもあるでしょう。

 

走り高跳びで「背面跳び」が開発されたときも、砲丸投げで「グライド投法」が開発されたときも、最初は世界中の選手たちの度肝を抜きました。

 

これらの方法も、少し世が違えば禁止されていたかもしれませんが、現実では世界的に使い手の多い主流として扱われています。

 

もしかすると、やり投げの世界でも今後、新しい投法が登場するかもしれません。

 

皆さんに新しい投法を考案することを勧めるわけではありませんが、もしも現行の投法より優れた投法があるとすれば、それを見つけた人は、歴史に名を残す名選手になるでしょう。

 

そう考えると、「やり投げには工夫の余地が無い」とは、決して言い切れないのかもしれません。

 

やり投げで記録を伸ばす方法


やり投げで記録を伸ばしていくためには、
  • 基本的な知識
  • コツ
  • 練習方法
などを知っておく必要があります。
それらを知っていることで、指導された内容を深く理解でき、記録を伸ばすことにつながるでしょう。
そのような基本的な知識やコツ、練習方法を無料メールマガジンで配信しております。
ぜひご登録ください。

やり投げでの記録を伸ばしていくには
  • 一流の選手がどのような練習やトレーニングをしているのか?
  • 一流の指導者がどこをポイントとして指導しているのか?
を知ることが、一番の近道です。
それらを知ることができる、おすすめのDVDがこちらです。
ぜひご覧ください。

やり投げで自己ベストを更新する練習法のDVDはこちら

関連ページ

やり投げとオーバースローを関連付けて理解する上達法とは?
やり投げ経験のない人は、やり投げのフォームを難しく考えすぎる傾向にあります。すでにやり投げを始めている選手のなかにも、最初の頃は「特殊な投げ方」「普通にボールを投げるのとは全く違う」と思っていた方も多いのではないでしょうか。しかし実のところ、やり投げの投てき方法はさして難しいものではありません。もちろん大会で記録を残すような飛距離を出すためにはかなりの練習を積む必要がありますが、初心者でもちょっとしたコツを知っていれば10数メートルくらいならかんたんに飛ばせるようになるでしょう。リリースのポイントなども解説しております。ぜひご覧ください。
自宅でも出来るやり投げのトレーニング法は「筋トレ」が一番!
本格的にやり投げの練習をやろうと思ったら、それなりの設備が必要になります。やりを投げても問題ないほど広い空間が無ければ、練習はおろか安全面の確保すらできません。他のスポーツと比べて使用する道具自体が大きいこともあり、自宅で出来る練習法というのは限られてきます。しかし自宅では全くトレーニングができないかといえば、そのようなことはありません。多くのやり投げ選手は、練習の無い日には自宅やジムでの「筋トレ」を行っているのです。今回は、やり投げの選手が鍛えておくべき筋肉の種類と、有効な鍛え方について詳しく解説していきます。
やり投げの記録で追い風・向かい風が考慮されない理由
やり投げは「向かい風のほうが有利」だと論じられることが多いです。逆方向から風が吹いているというのに、どうして有利だと考えることができるのかお分かりになるでしょうか?その秘密は、やり投げで使用される「やり」という独特な投擲物の形状にあります。やりの胴体部分が向かい風を受けることで「揚力」を生む可能性があるからです。
やり投げの記録を伸ばす正しい助走・踏み込み・効果的な投げ方とは?
やり投げの記録を伸ばす為に重要なポイントは、他の投擲競技やフィールド競技と同じく ・助走で得た力をやりに連動させる ・正しいフォームでやりを投げる この2点にあります。 やり投げは正しい助走と投げ方次第で記録が左右されるのです。正しい助走、ラストクロスの重要性、踏込みの重要なポイント、やり投射時の重要なポイント、やり投げは技術が記録に表れる、などについて紹介いたします。
やり投げでの助走スピードを上げる効果的なトレーニング方法とは?
やり投げは日本国内では競技人口も他の競技に比べると少ない傾向にあります。 その原因の1つとして、正しく指導出来る指導者が少ない事が挙げられます。 その為、独自のトレーニングを生み出して取り入れている選手も多くいるのです。 これには賛否両論ありますが、やり投げの正しい知識を身に付けた上で独自のトレーニングを行うのであれば良いと思います。 やり投げでの記録を伸ばす為に重要なポイントとは、 ・助走スピード ・正しいフォームでやりを投げる の2点にあります。 ここでは、この2点についてのトレーニング方法を紹介していきます。
やり投げの投射角は何度が適切?
やり投げの記録は理論上、初速度・投射高・投射角の3要素で決まるとされています。初速度は投擲した瞬間の速さ、投射高は投擲した瞬間の高さ、投射角は投擲した角度のことですね。やり投げの記録が投射角のみで決まるわけではありませんが、投射角が記録に大きな影響を与えることは間違いありません。今回はそのうち、「投射角」についての考察を行ってみたいと思います。
やり投げの記録と助走スピードは関係するか
ハンマー投げや砲丸投げとは違い、やり投げは「助走」を行う競技です。30メートルの助走距離を経て投擲へと至るのです。「助走」を上手く投擲力に変換できるかどうかがやり投げの記録を伸ばすカギになるわけですね。助走のスピードとやり投げの記録には密接な関係があるといえます。テクニックやフォームが完璧ならば助走が速いほどやり投げの記録は伸びますし、逆に助走のスピードが乗らなければ記録は一向に伸びないでしょう。
初心者でもわかる!やり投げのスパイクに関するQ&A
スローイングシューズのカタログ等を見てみると「砲丸投げ・円盤投げ用」と書かれているものが多く、やり投げだけ対象外になっているモデルが多いことに気がつきます。 どうしてやり投げだけ別扱いなのかというと、やり投げは三大投てき競技の中で唯一「スパイク」を使う競技だからです。 やり投げは、公式ルールによって回転投法が禁じられています。 そのため回転のしやすさが必要なく、より「投てきの瞬間のグリップ力」を追求したスパイクが使われるようになったのです。