やり投げの記録で追い風・向かい風が考慮されない理由

【「向かい風のほうが有利」という一般論】

やり投げの記録で追い風・向かい風が考慮されない理由

屋外で物を投げようとすると、少なからず風の影響を受けることは想像に難くありません。

 

例えば野球ボールを投げるとして、真正面から強い向かい風が吹いていたら、ボールの投擲距離は風の抵抗を受けて落ちてしまうでしょう。

 

一般的な人は「向かい風があると物を遠くに投げるのは不利」だと感じると思います。

 

しかし不思議なことに、やり投げにおいては「向かい風のほうが有利」だと論じられることが多いのです。

 

逆方向から風が吹いているというのに、どうして有利だと考えることができるのか、お分かりになるでしょうか?

 

その秘密は、やり投げで使用される「やり」という独特な投擲物の形状にあります。

 

ボールなどの先が丸い物体を投げると、空気や風の抵抗を受けますが、やりの先端は非常に鋭利なので風の抵抗をほとんど受けません。

 

つまり、いくら強い風が吹いていようとも風向きと並行に投げている限りは、風の抵抗を最低限に抑えることができるのです。

 

揚力を生む

では、どうして「風の影響を受けにくい」ではなく「向かい風が有利」だとされているのでしょうか。

 

それは、やりの胴体部分が

  • 向かい風を受けることで「揚力」を生む

可能性があるからです。

 

揚力というのは、飛行機が空中を飛ぶために必要な力と同じものですね。

 

真正面から来た風を下向きに受け流すことで、いわば「真上に飛ばされている」状態を作り出すことができるわけです。

 

飛行機のように巨大な物質が空を跳べるのは、飛行機の形状とエンジンの力によって、人為的に揚力を生み出しているからなのです。

 

向かい風の中で投げるやりにも、この揚力が生じることがあります。

 

やりはナナメ上に向かって飛ばされるため、先端は風を切り裂き、胴体は風を受けて揚力を生み出します。

 

この作用は無風状態でも発生しますが、揚力は進行方向からの風が強いほど高まるため、「向かい風のほうが有利」という話が生まれたのです。

 

 

【どうして追い風・向かい風の記録がされないのか】

さて、一般的に「向かい風のほうが有利」だと言われている理由を理解してもらったところで本題です。

 

「向かい風のほうが有利」だという説が本当なら、どうしてやり投げの試合では追い風・向かい風を記録しないのでしょうか。

 

向かい風が有利だということは、裏を返せば「追い風は不利」ということになりそうですよね。

 

風向きは常に変化するので仕方ありませんが、「向かい風のときに投げた選手」と「追い風のときに投げた選手」の条件が一緒というのは、あまりにもフェアでない気がします。

 

「運が悪かった」と言ってしまえばそれまでですが、厳しい練習を乗り越えてきた選手に対して「追い風で運が悪かったね」というだけなのはあんまりです。

 

実はこうした議論は昔からあり、「追い風・向かい風の記録を分けるべきではないか」という話もあります。

 

条件がフェアでない以上、同じ記録として扱ってしまうのは、不公平だという意見を持つ選手はかなり多いようです。

 

 

向かい風が有利だという確証がない

ではなぜ、未だに追い風・向かい風の記録は保留状態になっているのでしょうか。

 

それは

  • 「向かい風が有利だという確証が無い」

からに他なりません。

 

先ほど話したように、向かい風の状態で投げると、やりに揚力が生じるのは事実です。

 

しかしそれは「追い風が不利」という話には直結しないという声も少なくはないのです。

 

「投げ方にもよる」という前提付きではありますが、実は「追い風の日のほうが記録が伸びる」という選手が一定数存在します。

 

もちろん気持ちの問題ではなく、普段は大した記録を出せていないのに、追い風の日だけ他の選手を圧倒する選手がちゃんといるんです。

 

その違いはまだ明確に判明していませんが、投法・体格・風の強さなど、様々な要因が絡んでいるようです。

 

「追い風と向かい風のどちらが有利なのか」という根本的な部分が解明されていない以上、わざわざ記録して分けることは無いというのが現在の通説です。

 

もしかすると、今後ルール変更されることがあるかもしれませんが、当面の間は追い風・向かい風を記録する予定が無いようです。

 

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